暮らすのブログ

小売店勤務アラサー。リアルです。よくお酒を飲みます

感情は原価率0%の商材

 

「なァんとなんとォ!ステキなステキなこちらの姫よりィ!高!級!シャンパン!いただきましたァー!!」

「「「アリアッスーー!!!」」」

 

その直後、店内の照明と音響が切り替わり、ド派手な演出とともに数人のホストが卓を取り囲んでのシャンパンコールが始まった。

 

お祝いムードのど真ん中。ゲリラ豪雨のような喧騒を浴びるその卓に居たのは、なんとぼくだった。

初めての指名客、初めてのシャンパンオーダーである。

 

「やったじゃん!どう?ホストの醍醐味がちょっとわかったでしょ!」とぼくに声をかけ、「姫(ホストクラブ内でのお客様の呼称)!今日は〇〇(ぼくのこと。源氏名で呼ばれている)の初めてを貰ってくれてありがとう!これからもよろしく頼むね!」とぼくの隣に座っているお客様にも声をかけたのはナンバーワンの不動さんだ。

その言葉にお客様はニコニコしながら「仕方ないなあ。でもそれは〇〇(ぼくのこと以下略)次第だな〜」と、まんざらでもない表情だ。

 

一方のぼくはというと、(このシャンパンって7万円だよね?お会計時にはサービス料が35%上乗るからお支払いは10万円近いことになりますけど大丈夫?何故こんなことに…。)と一人戦慄していた。

売店で定価7,000円程度のシャンパンがこのお店では十倍の価格で販売されていて、オーダーするお客様もそれは理解している。にわかには信じがたかった光景が目の前で起きたのだ。何故?何に価値を感じたの?ぼくの頭はソレでいっぱいになっていた。

 

入店から1ヶ月が経った頃、相変わらずぼくはお馴染みの先輩ホストとバディを組んでキャッチに勤しんでいた。

「〇〇さん(先輩ホスト)のお客さんってどういう人が多いんですか?というかどうやってお店に来てもらってるんですか?」とぼく。「いろんなタイプいるけど、あんまりお酒は飲まない子が多いよ。ほとんどキャッチでつかまえた子だから本担(本命の担当ホストの事。1店舗につき1担当制度がホストクラブのルールらしい。なのでこの場合、先輩のお客様には他店に優先して指名するホストがいるという意味。)いるしこっちにはそんなに来てもらえないね」

なるほど確かにこの1ヶ月、この人指名での来店を見たことがないはずだ。

お客様をいかに抱えていようとも、ご来店頂いて売上を立てていない限り、ぼくと先輩は同じ評価(給料)に落ち着く。結果が全てだ。

とはいえぼくは何も売上を立てたい訳ではなく、不動さんの接客を見て勉強したかっただけなのだ。ところが売上ゼロの新人がナンバーワンのヘルプに着かせてもらえる機会は思いのほか少ない。お客様からの同席NGが入るのだ。『喋れない、飲めない、気が利かない』ホストには接客の仕事すら与えられないというワケ。

その指標になるのが売上とその順位、それからお店からいただく役職だ。実際、お客様をお店に呼べず売上を立てられないということはそれだけ魅力に乏しいとされ、『それ』は実際の接客に入ると露呈した。

 

お酒は好きだけど強くない。ちなみにぼくが所属していたお店のお酒は8割が『焼酎』と総称される純アルコールみたいな甲類焼酎と缶チューハイのことを指し、だいたいこれを無限に飲むことになる。これがもう辛いのなんの。

飲みコール、カラオケコール、ゲームで一気飲み。これを繰返す。まともな意識ではいられない。せっかくたまに不動さんの卓にヘルプでつかせてもらっても、泥酔するまで飲むはめになるので勉強どころでは無かった。

一ヶ月勤めてだいたいペース配分や仕事の流れは掴めてきたものの、当初の目的にはカスりもしない日々を過ごしていた。

 

いつものように先輩と一緒になってキャッチに出かけた。この頃になると断られることが前提なのであまり心を痛めなくなってきていた。とにかく声掛けの回数を増やして確率を上げるのだ。

 

ブラブラ歩いていると、コンビニの前でスマホ片手に手持ち無沙汰な二人組を見付けた。とりあえず声掛けだ。

「こんばんは!ひょっとして飲むところ探してないですか?すぐのお店なので飲みきてください!」ずいぶん慣れたものである。

 

「え?なにお兄さん居酒屋?w」とお姉さん。「や!ホストクラブです!すぐそこのビルですから飲みに来てくださいよーめちゃくちゃ飲みますよこの人が!」と、先輩にパスを送る。

するとなんて言ってたかな。たしか「俺は歩くザルだからな!」とかそんなこと言ってやっぱり滑ってたと思う。

 

二人組は興味を持ってくれたようだったけど、その日はもう他店で遊ぶ予定があるから行けないとのことだった。

きちんと断ってもらえるだけありがたいことなのに、なんと連絡先を教えてもらえることになった。

ホスト業の為に新しく用意していた専用スマホ。お客様(候補)第一号の連絡先を登録した。

 

そのお客様は見た目よりずっと年齢を重ねており、なんと39歳でホスト遊びの歴は20年近いらしかった。ゴリゴリのベテランである。20代は自らも水商売をしていたらしく、ホストらしくないぼくに興味を示してくれたようだ。ビギナーズラックとはこのことか。

 

さて。初めて女の子の連絡先をゲットした。ここからなんとかお店に呼んで売上を立てなければと思うものの、いわゆるホストの営業に疎かったぼく。何も知らず、お客様にいきなり店外(店外営業のこと。お店の外で飲んだり遊んだりして距離を詰めてお店に呼ぶための営業方法。)をかけていた。

これにはベテランの姫にしてみれば、「未経験で入店1ヶ月の新人が来店もまだのお客に対していきなり店外営業をかけてくるなんてw」と面白がってくれた。この時はぼくが何をしてもプラスに受け取ってもらえてたから、今思うとこのお客様にハマってたんだと思う。

そんなこんなでその後も店外を何回かしたあたりで、お客様のほうから気を遣って「あんた何がしたいのw さすがにそろそろ店に行くわw」と言ってくれた。さすがにね。というか何がしたいのかはぼくにもわかってないんですよ。お金使ってほしい訳じゃなかったからお店に呼ぶって発想が無かった。とんでもないやつだ。オーナーにぶん殴られなくてよかった。

 

そして初来店。初指名。初シャンパンオーダーである。

何を思ったかぼくは心の内をぶっちゃけた。

「これ(シャンパン)にこの金額ってすごいと思う。どうしておろしてくれたの?」今思うとめちゃくちゃ野暮なホストである。すると「いやー楽しかったからw てか別にこのシャンパンだからおろした訳じゃないよ。なんならコーラ1本持ってきてハイ10万ねって言われたって全然いいんよ。楽しい時間とか気持ちにお金払ってんだから」なんですと。

 

うーんなるほど?キレイにうまくまとめると、ホストクラブはそういう遊び方をわかってる客層に向けて、ホストが時間を使って丁寧に育てたお客様の感情をお金に変えてもらう場として仕上がってるってことなのか?原価率0%の最強の商材。取扱いの難易度はとびきり高いよな。

意味や理屈を求めてお金を使う現代においてちょっとした特権階級みたいなお金の使い方だなって思った。そんなキレイなこと無いか。ま、そういうパターンもあるんだろうなくらいに思うことにした。

 

そんな訳でぼくの本業の参考には全くならなかったけど、収穫が無いわけではなかった。

度胸みたいなのはめちゃくちゃついた。あとはコミュニケーションが潤滑になる間とか目線、表情の取り方の『ニュアンス』ってヤツも。

 

それから程なくしてお店をあがったぼく。結局ホストにはなれなかったな。それ以降ぼくに指名客が出来なかったのも、やっぱりホストクラブが狙っているお客様の客層にぼくがハマらないからだとおもう。だってホストしないから。

 

一年も経たないくらいの短い間のことだった。社会勉強ってワケ。

 

続かない。かも

今日の雑談

 

こんにちは。今月が峠の仕事を一件抱えているのに加えて、資格取得のための勉強にも追われている暮らすです。どっちもは無理!

ここだけの話、取り急ぎ目先に迫った仕事に気持ちをとられています。資格試験は来年も受けられるけど、仕事で社内に成果をアピールできる機会って実は少ないのです。

べつに強い出世欲は無いしできるとも思ってないんだけど、ちょっとはサクセスしておかないとこれから先もお酒は飲みたいし本はたくさん読みたいし、というワケです。

 

ビジネスホテルのデイユースプランが調子よくて今日も部屋をとりました。なかなか厳しい出費だけど、今月いっぱい集中して取り組むための必要経費だと言い聞かせています。大丈夫です。

さっきチェックインを済ませてきまして、とりあえず腹ごしらえに外出。モーニングかなーと思って街を歩いてたのに気付いたら吉野家に入ってました。(えー。朝から牛丼食べるの?自分)と、胃もたれを心配しながら牛丼を食べてみたもののこれが大正解でした。めちゃくちゃ力が湧いてきてやっぱり白米が体に合うなあとしみじみ思います。

宿に戻る前にどうしてもコーヒーだけは飲みたくなって近くのタリーズに入ってアイスコーヒーを飲みながらこれを書いています。もうちょっとしたら戻りますよっと。

 

ところで仕事の話をもうちょっと引っ張ってもいいですか。業務の話ではなくてキャリア的な話。いま抱えている仕事の成果が、ぼくが社内でサクセスする上でのルートの分岐点になるかもしれない話を上司づてに聞きまして。

現在ぼくは社内で管理職一歩手前の職階で仕事をしています。つまり今所属しているセクションには当然ぼくの上司にあたる方が居て、それがいわゆる責任者(管理職)という訳です。

順当にいけばぼくはこのまま全国に数あるセクションの一責任者となってサクセスの頭打ちになる予定だったのですが、今抱えている仕事の成果によっては東京への転勤の可能性もあるそう。きっつー。

東京には本社と本店を始め、いくつもの大型店舗や旗艦店が存在する。それだけに社内の花形は都内。売上規模や客層も地方店のそれらとは比べものにならないこともあって、毎年全国からやってくる新卒新入社員の95%が都内勤務を希望する。それはわかる。わかるよ。こう、燃えるもんね。

だけどそれは、地方店のしがない店長候補のぼくには本来関係の無い話のはずなのです。

熾烈な競走。自身の成長のために切磋琢磨し売上を追い、取扱い商材のプロフェッショナルを極める。そんなアツい未来が東京にはあるのです。それはまるで酒豪の集まる飲み会に、開始1時間30分から途中参加するシラフのシチュエーションですよね。いける?無理くないですか。

もうちょっと若かったらな。「よっしゃいっちょやったるか」となったかもしれないんだけどね。え?まだいける?

 

ぼくの友人に、バンドでの成功を夢見て地元を出て上京していったヤツがいます。もう5年くらい経つのかな。始めの1年とかそこらはバンドを組んで曲を作ったりライブ活動したりやってる事を話に聞いてたんだけど、今となってはいつの間にかバンドは解散して長いしもうほとんど楽器にも触ってないフリーターになってしまった。なんなら同棲している恋人がいる。

音楽の話はもう聞かないけれど、いわく「就職するために東京に来たわけじゃない」ということと体力があまり無いからという理由で彼は自由人のまま。

 

そうそう。この前ひさしぶりに連絡がついたので少し話しました。上京当初はけっこうなボリュームで音楽の話や活動の進捗を話してくれていましたが、最近はもっぱら買ってよかった家電の話と一緒に暮らし始めた猫の話ばかりです。それはそれでおもしろいから始末に負えません。

その昔、HIKAKINのヒューマンビートボックスの動画を検索しようとして商品紹介動画に埋もれて探すのを諦めたある日を思い出しました(HIKAKINは商品紹介もおもしろいよね)。

上京の当初はあんなに燃えていた彼。当時20代前半で、あんなにたぎっていた彼でさえ研鑽を重ねることを諦めてしまったことを思い返してしまったのです。もちろんサラリーマンのぼくとバンドマンの彼では目標への難易度が桁違いなので引き合いに出すのもフェアじゃないけど。

 

なんて考えだしても止まらないし何が変わる訳でもありません。とりあえず目の前にある仕事と目標達成に向けてぼちぼちやるのみですね。何かが変わるならその時また考えます。では。

 

続かない。

今日の雑談

 

こんにちは。入社以降、勤め先から請われている『取扱い商材に関する専門資格の取得』という目標を達成しないまま、今年で早くも3年目になる暮らすです。

ぼくには中途入社の頃を同じくしたほぼ同期と言えるメンツが全国の支店に10名ほどいるのですが、既に退職してしまった人とぼくを除けばおそらくもうみんな取得してしまっているそうです。なので今年こそはぼくも試験に通って、少しは会社の期待に応えられる優良社員であることを示したいところです。

 

まあそういうことで、今日はそのための勉強に貴重な休日を使って取り組んでいます。自宅や図書館で勉強するのもアリなのですが、少し気分を変えてビジネスホテルの部屋を日帰りプランで借りることにしました。

ぼくの生活範囲の中ではもっとも都会な駅から歩いて3分の好立地にあって、朝の10時から夕方の16時頃までの滞在で三千円ポッキリという良心的な価格設定です。

とはいえ滞在するだけお金が発生する場なだけに、文字通り時間を無駄にするわけには行きません。自分を追い込むスタイルです。元を取りたいのです。

そのために休日にも関わらず平日並みの早起きをしてやってきたのですが、到着して気が付きましたがどうやらいちばん大事な教材の一冊を自宅に忘れてきてしまったようです。これは仕方がない。

 

とりあえず気を取り直すため、早起きして食いっぱぐれた朝食をとりに外出。宿の近くにあった喫茶店でモーニングを食べました。

ご存知ですか?モーニング。コメダ珈琲は今や全国区ですし、モーニングももうメジャーなのかな?というか全国のコメダ珈琲でもモーニングのサービスってあるのかな。

さて、今日はドリンク代金にプラス300円してちょっとリッチなモーニングに変更してもらいました。冷静に考えて朝食に800円(ドリンク代で400円)も使ってしまってあんまりお得な感じはしなかったのですが、立地を考えると妥当なような気もします。おいしかった。

 

話が逸れました。宿に戻って一時間ほど集中して試験の過去問に取り組んでひと休み。自宅よりも新鮮で、図書館よりも静かなのでいつもより集中できるようです。これは成功ですね。

ひと休みついでに持参していた読みかけの本が残り100ページも無いくらいだったのでサクッと読み切る。読書もはかどります。

勉強ってのは始めるまでが億劫で仕方ありません。始めてみれば意外と続いたりするのですが、そのたびに自分がいかに無知なのかを思い知るのでこれが億劫の原因なのかなとか思ったりします。

とりわけ資格の勉強となると、自分が普段の業務ではほとんど触っていない方向の知識にまで話が及ぶので『何がわからないのかがわからない』状態に陥ってこれがキツい。

それでも資格ってほんとによく出来てるなって思います。

 

さーてそれでは後半もがんばってきます。

 

続かない。

ナンバーワンの正体

 

「おーいどうした?病院の待合室かと思ったじゃんw」

(助かった……)と思った。

 

その人はコチラに向かってそんな言葉をかけながら飄々として現れた。このお店で代表という役職を務めるぶっちぎりのナンバーワンホストだ。

彼が卓についた途端、これまでぼくの接客をガン無視してスマホをいじり続けていたその女性客は、文字通り目の色と声色を変えてめちゃくちゃ饒舌になった。びっくりした。魔法かと思った。

 

彼は常連の指名客からは『不動さん(不動のナンバーワンだから)』と呼ばれていた。

 

不動さんは魔法使いだ。お店のどのホストも相手にされないお客様が相手でも、彼が接客すればたちまち卓は盛り上がりお酒のオーダーが増える。

不動さんの接客は自身の指名客だけでなく、新規のお客様まで含めて卓についている人間まるっと魅了した。もちろんぼくも。

 

説明しようのないチカラを持った不動さんの接客。そのナンバーワンの正体に、ぼくはどうしても迫りたくなった。

 

ホストクラブの求人に応募すると即日返答がきた。数日後、面接にうかがいその場で即採用。とにかく人手が足りないようだった。

ぼくはホストではなくホールスタッフやキッチンスタッフなどいわゆる内勤と呼ばれる裏方を希望していたけれど、「今はプレーヤー(ホスト)が足りないから、もしかしたらたまには卓に着いてもらう(ホストとして接客をしてもらう)かも知れない」とオーナーから言い渡されていた。不安だった。

 

果たして不安は的中した。たまにどころの話ではなく、もはや内勤希望の話は現場に通っていなかったのだ。

そんなワケでめでたくホスト(バイトとはいえ)として入店を果たしたぼくだけど、求人に応募したことを入店初日で後悔することになる。

 

「指名客のいないホストの義務だから」という支配人(ホストクラブ内でお店に貢献しているプレーヤーに与えられる役職のひとつ。結構偉い)の言葉に従い、入店後のオリエンテーションもそこそこに、キャッチと呼ばれる屋外での声掛け(今では違法だけど当時はまだ許されていた行為)に駆り出された。

入店初日のぼくと同じく指名客のいない、あるいはその日に自身の指名客の来店予定の無い先輩ホストと街に出た。

「どうやって声をかけるんですか?」とぼく。「どうって……そのまんまだよ。早く声かけてきて。ほら向こうから歩いてくる二人組。行って」という、放任を通り越して放逐主義の先輩ホスト。

声かけは当然失敗した。

なんて声かけたかな。もう覚えてないけど、道端の石ころみたいに無視されたっけな。

それで何故か無性に先輩に対して腹が立って「〇〇さん!お手本お願いします!」と言って先輩をけしかけたらぼくと同じ結果だった。なんなら「はぁ?ウザ」と捨て台詞までかけられていたくらい。

すかさずぼくは小難しい顔をして「むずかしいんですね……」とか言いつつ、内心ニッコリしながら先輩のことをちょっと好きになった。

 

それから2時間くらい当たって砕け続けた。粉。もう気持ち的には粉状になるまで砕かれ続けたところで支配人から電話でお店に呼び戻された。

聞けば『お店の人気ホストが出勤したからその指名客の来店ラッシュが始まった。接客するにも人手が足りないから戻ってこい』というものだった。

 

お店に戻ると、出る前には閑散としていた店内がお客様で埋まり始めている。どの卓も楽しそうにお酒を飲んでいた。

ぼくがその様子を遠巻きに見ながら(この感じテレビで観たことあるなあ)とボケていると、キャッチ仲間の先輩ホストに呼ばれた。

ホストクラブでの初めての接客である。

もう緊張なんてもんじゃない。開店前のオリエンテーションで支配人から仕込まれたテーブルマナー(お客様のお酒を作ったりテーブルのクリンネスを整えるなど、いわば“ホストの領域“を展開する様々な作法)を実践するのにいっぱいいっぱいで、とてもじゃないけど接客どころの話ではなかった。隣を見ると先輩ホストは順調に滑っていたので少し緊張がほぐれた。

 

しばらくして新たな来店客。卓には通したけどホストが空いてない。

 

その時、支配人からのキラーパスが届く。

「あの卓、しばらくひとりでヘルプついてくれ」いやいやいや。

 

見た目おっとりしていて物静かな女性客。10分くらい場を繋げば指名のホストが来るという話だったのでとりあえず卓に向かった。

「失礼します!ご一緒してもよろしいでしょうか!」とにかくハキハキと。元気が取り柄なぼくだ。

「どうぞー」とお客様。早速お酒を作り始める。するとお客様から指名のホストはいつ来るのか聞かれたので、支配人の言葉通りに伝えた。

 

すると「あっそう」と言ったきり、お客様はスマホを取り出し何も喋らなくなった。

そこからはぼくが何を話しかけても無視。顔も上げずにスマホをいじっている。きっつー。こんなことならキャッチのほうが全然マシだと思った。

 

10分間が長い。無視されたからと言って、こちらはホストだ。お客様からのレスポンスが無いからと、黙って時間を過ごさせる訳にはいかない。あの手この手で話題を振り絞ってみたが反応はなかった。

入店を後悔し始めたころ、救いの手が差し伸べられる。

 

「おーいどうした?病院の待合室かと思ったじゃんw」

指名ホストの不動さんだ。

助かった。それ以外無かった。

 

それまでのお客様が嘘のように喋り始めた。

不動さんが卓についてからは天国のように楽しい時間になった。不動さんを仲介することでお客様にもようやくぼくの姿や声が認識できたようで、なんとなく接客ができた気になっていた。

 

再び支配人のキラーパスが届く。

「不動さん!他の卓も回って!」

きっつー。

 

不動さんが卓を離れて代わりにやってきたのは、キャッチ仲間の先輩ホストだった。

先輩風を吹かせようと気合いの入った表情の先輩ホスト。不動さんが抜けた後のお客様は再び地蔵になった。先輩ホストは恥ずかしくなるくらい滑っていた。

 

なにが違う?不動さんはどうしてこうも人を惹きつけるのか。ぜんぜんわからなかった。

 

初日を終えてヘトヘトだった。お酒をたくさん飲んだし声を張って接客もした。先輩ホストと一緒に滑ったりキャッチで無視されたりと心身ともに疲労困憊だった。

 

(こんなに大変か……。接客の勉強どころかまず体力持つのかこれ…)と、初日にして先行きが思いやられたぼくだったが、不動さんに対する関心は強くなる一方だった。

 

続くかも。

暮らすの職業体験

 

『接客業』

学生時代のアルバイトから現在に至るまで、ぼくの職業人生のすべてがコレと言える。

業種は違えど勤めた先で「ウチは接客にチカラ入れてるから」というのを、上司や先輩からは開口一番伝えられてきた。

 

企業が用意している『モノ』や『コト』を販売する為の接客。ぼくはいま小売店に勤めているのでまさにコレ。自社取扱いの商材を販売する際の顧客とのやりとり全般を総じて接客を指す。

前提として“商材ありきの接客“というわけ。

もちろんその接客までを含めて商材ひとつの品質としている業種もあって、ホテルや旅館、格の高いレストランに対してはそんな認識でいるし(施設を選ぶ時には利用した人のレビューや専門家の評価がひとつの検討材料になる為)、同じ職種に就いている職業人として尊敬もするところ。

 

ところが世の中には、商材そのものよりも接客やサービスのソレを売りにしている、というか売っている業種もある。

俗に水商売と言われる夜のお店。

ネットやメディアで見る限り掴めることは『よく見かけるお酒が見たこともない金額で売られている』みたいな漠然としたイメージだけ。

 

ふと思う。

もし『売られている』なんてイメージ通りの現実だとしたら、それで成り立つ業界が今どきあるのか?仮にほとんどがそうだったとして、もしほんのひと握りでもきちんと『売っている』人がいるとしたら…。

業種が違えば販売や成約に至るまでの具体的なアプローチやセールストークの展開、クロージングのかけ方も当然違う。同じ業界だって客層が違えばもちろんのこと。

参考になることなんてほとんどないのかもしれない。だけど何か拾えるものがあるかもしれない。

 

そう思った若かりし日のぼく。

その日のうちにホストクラブの求人に応募していた。続くかも

夏はノスタルジックになる

 

あー…あつい……。

 

スマホの温度計によると今の気温はラクに35℃を超えている。これを書いているこの時間帯(12時過ぎ)はいよいよ暑さのピークのようで、朝からあんなにうるさく鳴いてたセミも黙るほどみたい。

毎年思うことだけど、自身が小学生とか中学生の頃って真夏でも気温30℃超えでいっぱいいっぱいだった記憶がある。気のせい?昔からこんなに暑かったっけ。

 

ところで今日は仕事はお休み。眠れるだけ眠って起床は11時前だった。コロナ禍における休日の予定なんて9割が読書とサウナと飲酒しかない。友人知人と食事したり遊んだりって、まあ月に一度あれば多い方じゃないかな。

 

いよいよアラサーも板に付いてきたこの一年で、ぼくの休日の過ごし方がガラッと変わった。プライベートでの友人との付き合いが減ってしまったことはその一因だと思う。コロナってこともあるけど、独身の友人が少なくなったことがいちばん大きいかも。

2ヶ月くらい前に独身のぼくと、結婚して子どもが産まれた友人ふたりと食事をした時に、ふたり揃ってほとんど子育ての話題で持ち切りだった。ぼくも聞いてる分にはけっこう楽しいし、子どもは好きだからいつか友人らの子どもたちとも遊んだりできる日が来るのが楽しみだなあとかおもう。

家族を持ってすっかり生活の軸みたいなのが変わってしまった友人たち。「独身の身軽さが羨ましいわ〜」「苦労多いぜ。自由も無いしな」とか言ってたその顔から不満は見て取れなかった。幸せらしくてぼくも気分が良い。ホワホワした気持ちになった。

 

もうひとつは最近の仕事の変化。アラサーにもなると社歴は浅くとも、社内で課せられる業務と何故か背負わされる責任が増えてくるみたい。給与は微増なのに。おかげで休日を使って業務の段取りをしたり商材の勉強したりが増えてきた。なんだかんだ真面目にやっている。微増なりにも昇給の幅が大きくなるし、休日にやることも実際そんなに多くないからね。

 

夏の暑さってなぜか昔を思い出すんだよね。ぼくだけ?

この前もちょっとだけノスタルジックな気分になった時に、この半年くらい稼働していない地元の友人たちと作ったLINEのグループを見返しちゃって、学生時代の写真がモリモリ出てきてグッとなった。友人たちとの若い頃の思い出ってどうしてか夏が圧倒的に多い。

炎天下の中でBBQしたり魚釣りしたり、何故か(ほんとに何故か)自転車で500km以上離れた場所まで向かったりと、今では絶対にやりたくないようなことを当時のぼくは楽しそうにやってる。

外で汗かくのはめちゃくちゃイヤなのに、今日もこのあと昼飯食べたらサウナに行く。そのあとは帰宅して勉強かな。と思ったけど、たまには気分変えてカフェでコーヒー飲みながら読書でもやってみようかな。では

 

 

暮らすのジントニック

 

『あらゆるお酒に優劣は無い。あるのは状況の違いだけだ』という格言(今考えた)に学ぶとおり、好みというのはひとつあるけれど、その先にはただふさわしいタイミングにふさわしいお酒があるんだとおもう。

 

今日は最高気温36℃、湿度70%の弊県。この数字がすでに暑苦しいとさえ思う。

 

ぼくはほとんど毎日なにかお酒を飲んでいて、だいたいビールかハイボールもしくはウイスキーをそのまま飲むくらいなんだけど、たまに飲むものにこだわりたくなる日もある。それが今日。

 

今日の気温湿度から言って冷えた泡酒が正解なのは明らかでしょうと。ビールはまず浮かんだ、次にハイボールも。だけどちょっとピンとこなくて少し考え込む。そうだ香りだ。

 

 

若かりし日のぼくは(と言っても24歳ごろ)、深夜営業のダイニングバーで勤めていた。若輩ながらバーテンダーの端くれをやっていて、その時に会得したカクテルのレシピのほとんどは忘れてしまっているけれど、唯一ジントニックハイボールの作り方だけは覚えているのだ。まあ簡単だしね。

 

そんなことで、ひさびさにいっちょ作るかと思い立ってさっそく材料集めにスーパーと酒屋さんをハシゴ。

ジントニックに使うジンは何でもおいしい。個人的にはタンカレーのスタンダードかゴードンがおすすめ。ただしライムは生のモノを使うことと、トニックウォーターシュウェップスというメーカーのモノがいいとおもう。できれば氷はせめてロックアイスを用意して、うすはりのタンブラーがあると満点だ。

 

ライムは丸ごと冷水でよく洗う。次に尖った両端を1cmほど切り落として縦切りに。それ以降は真ん中の筋に沿って必要な個数分縦切りするのを繰りかえし、白い部分を切り落として準備万端。

 

氷をたっぷりタンブラーに入れてライムを搾る。ジンを適量入れたら、最初に入れたライムの果汁とジンを混ぜて冷やしつつ馴染ませる(この時に溶けて減ったぶんの氷は追加する)。そして最後にトニックウォーターをタンブラーの内側に沿わせながら注いで完成っと。

 

最初の話に戻るけど、実際、夏になるとジントニックのオーダーはかなり増えた。一杯目は水分補給代わりにジントニックをひと息にあおる男性客のまあ多いこと。で、みんなうまそうに飲むんだよな。お酒の強い猛者な常連客になると三回くらいこれを繰り返してたっけ。

 

そのお店は深夜3時までの営業で、閉店作業を含めるとあがるのは4時前。始発までの一時間半を駅近くのファミレスで過ごしてたのを思い出した。その時間までよくシフトが被っていた後輩と食べるパフェがなによりのご褒美だったなあ。

 

一年後、ぼくがそのお店をあがる(辞める)時、その後輩(3歳年下の女の子)から「今までずっと好きでした。これで終わりにしたくありません」と告白を受けて不覚にもグッと来たのはまた別のお話。続かない